概要
脳卒中は全世界で年間1,700万人が、日本では約30万人が発症しています。世界的には、脳卒中によって年間570万人が死亡し、心臓病に次いで、死因の第2位です。また、重大な身体的な障害の第一の原因です。
https://www.world-stroke.org/world-stroke-day-campaign
日本を含め、先進国では脳卒中を起こされる方、脳卒中でお亡くなりになる方は減少していますが、日本では介護が必要となった原因では第1位、寝たきりの原因でも第1位で、認知症の原因の第2位です。
介護が必要となった主な原因を要介護度別にみると、要支援者では「関節疾患」が19.4%で最も多く、次いで「高齢による衰弱」が15.2%となっている。要介護者では「脳血管疾患(脳卒中)」が24.1%で最も多く、次いで「認知症」が20.5%となっている。
厚生労働省『要介護者等の状況』より
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa10/4-2.html
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000519620.pdf
脳血管疾患(のうけっかんしっかん)とは
脳や脳血管に関連する疾患の総称です。具体的には、脳卒中(脳梗塞や脳出血)や脳動脈瘤、くも膜下出血、脳血管炎、頸動脈狭窄症、脳静脈洞血栓症、脳血管奇形、過性脳虚血発作などが含まれます。 脳血管疾患は、脳や脳血管に異常が起こることによって引き起こされます。これらの疾患は、血管の狭窄や閉塞、血管の破裂や出血、血液の循環異常などによって脳組織に障害を引き起こします。
脳卒中について
脳卒中には、脳梗塞と脳出血の2つの主な種類があります。
以下にそれぞれの種類を説明します。
脳梗塞(のうこうそく)
脳血管が一時的または永久的に閉塞(へいそく)され、脳組織の血液供給が途絶えることによって起こる疾患です。脳梗塞は、以下の2つの主なタイプに分類されます。
大動脈性脳梗塞:主要な脳血管(大動脈)が閉塞されることによって起こる脳梗塞です。血栓や塞栓が血管を閉塞することが最も一般的な原因です。
小血管性脳梗塞:小さな脳血管が閉塞されることによって起こる脳梗塞です。主な原因は、小血管の狭窄や血管の炎症などです。
脳出血(のうしゅっけつ)
脳血管が破裂して脳内に出血が起こることによって起こる疾患です。脳出血は、以下の2つの主なタイプに分類されます。
1脳内出血:脳組織の中に出血が起こるタイプの脳出血です。主な原因は、脳動脈瘤の破裂や高血圧による血管の破裂です。
2蛛網膜下出血:脳と脳脊髄液の間に出血が起こるタイプの脳出血です。主な原因は、脳動脈瘤の破裂です。
脳卒中の一般的な症状
◆運動障害(片麻痺、四肢麻痺など)
うまく歩けなくなる
立っていてもバランスがとれず、力が入りにくい。上手く歩けない
◆感覚障害(表在・深部覚障害)
顔の片側にしびれや麻痺が生じる
片側の手足にしびれや麻痺が生じる
感覚が分かりにくくなる
痛みやしびれが継続する
◆失調(四肢・体幹失調)
箸を上手く持てない。
力の調節ができない
◆構音障害
舌がもつれてろれつが回らない・上手くしゃべれない
◆嚥下障害
飲み込めなくなる
◆視野障害(半盲など)
どちらかの目が見えにくくなる。視野が狭くなる。
ものが二重に見えたり、見えづらくなったりする
◆高次脳機能障害
◆失語症
言葉が出てこなくなる。
自分の話したい事が話せない。
言葉が理解できない。
◆失行・失認(着衣失行、半側空間無視など)
動作が分からなくなる
◆その他
ぐるぐる回るようなめまいがするがする。
けいれん発作がおきる。
激しい頭痛がおきる。
意識がもうろうとする・意識を失う。
吐き気や嘔吐がみられる。
脳卒中はどんな人がなりやすいのか。
脳卒中になりやすい方は以下の既往歴がある方です。
1位 高血圧
2位 高脂血症
3位 糖尿病
4位 心疾患
脳血管疾患は、上記以外にも運動不足、遺伝的要因などのリスク要因によって引き起こされることがあります。また、加齢によってもリスクが増加する傾向があるようです。
脳卒中を発症する内訳
脳梗塞78.6% 脳出血18.7% くも膜下出血2.7% になります。約8割の方が脳梗塞です。
脳卒中の男女比率は、男:女=6:4 男性に多い傾向にあります。
脳卒中の発症の平均年齢は、
脳梗塞74.9歳 脳出血70.2歳 くも膜下出血65.9歳になります。出血になると発症年齢が若くなる傾向があります。
脳卒中の好発年齢を見ると年齢別人数をより70代、80代の発症者が圧倒的に多くなることが分かります。一方で、若年化もすすんでおり、20~64歳代では約18%あり、年々増加傾向にあります。
次は脳卒中の発症年齢の平均値を男女で比較していきます。
脳梗塞 男性:女性=72.4歳:78.5歳
脳出血 男性:女性=67.5歳:73.3歳
男性の発症年齢が若い傾向にあります。
日本脳卒中データバンク報告書2023年
脳梗塞の死亡者
全国の脳梗塞死亡者数は62,277人で、人口10万人あたり49.06人。
死亡者数が最も多いのは
1位秋田県で人口10万人あたり93.76人(偏差値72.3)。
2位は山形県で91.73人。
3位以下は岩手県(86.36人)
4位島根県(81.16人)
5位新潟県(78.04人)の順。寒冷地での人数が多いことがデータから見てわかる。
一方、最も死亡者数が少ないのは沖縄県で人口10万人あたり30.99人(偏差値32.1)。これに東京都(33.90人)、愛知県(34.69人)、滋賀県(35.24人)、神奈川県(35.55人)と続いている。
脳梗塞の因子として高血圧、糖尿病、肥満、喫煙などがあげられており、これらとの相関を見ると、高血圧患者数、食塩消費量、しょう油消費量と正の相関があり、高血圧患者が多く塩分摂取量が多いところで脳梗塞が多いことを意味している。塩分の過剰摂取は高血圧の原因であることから、高血圧と脳梗塞との間につながりが示唆されている。
都道府県別統計とランキングで見る県民性
https://todo-ran.com/t/kiji/18411
季節
脳出血の発症数は 12 月から 1 月の冬場でピークを示し,4月以降 7 月の夏場に向けて著明に減少し,9 月から再び増加した.世界中の多くの研究結果から,脳出血は冬季に多く発症し,夏季に少ないという報告が一般的である。気温が下がると、脳は体から熱を逃がさないために血管を収縮させようと働きます。そのため血圧が上昇し血管への負担が増えることで血管が破れやすい状態になるため、夏に比べて”脳卒中”と”くも膜下出血”が増えるためと考えられている。
全国労災病院 46,000 例からみた脳卒中発症の季節性(2002−2008 年)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke/33/2/33_2_226/_pdf
芸能人有名人
長嶋茂雄
引用:https://www.instagram.com/p/BxsD7jfHYRH/
2004年3月(68歳時)に自宅で倒れ、【心原性脳塞栓症】だと診断されました。長嶋茂雄さんは左側に発症したため、「右腕の片麻痺」と「言語障害」の後遺症が残りました。
石原慎太郎
引用:https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2022/02/02/kiji/20220202s00041000219000c.html
石原慎太郎さんは2013年(76歳時)に軽度の【脳梗塞】を発症しました。 しかし、後遺症は多々残り、「利き手である左手で平仮名も書けない」というものです。右側に発症したため、 反対側の左側に後遺症が残りました。また「記憶障害」も後遺症となっていると2017年3月20日東京都都議会の調査特別委員会、石原慎太郎元知事の証人喚問時に述べられています。
引用:https://www.instagram.com/p/Bx6EjSBATxb/
石原慎太郎氏を証人喚問=都議会百条委員会
星野源
引用:https://www.oricon.co.jp/news/2019975/photo/1/
星野源(ほしのげん)さんは、現在38歳の若い J-POP 系音楽家や俳優として活躍中です。2012年(31歳時)に「くも膜下出血」を発症。「くも膜下出血」は「脳動脈瘤」の破裂が原因です。翌年2013年にも発症し、その度に活動休止となっています。
桜井和寿
引用:https://www.instagram.com/p/Bx2RwpkDdp3/
桜井和寿(さくらいかずとし)さんも、 2002年7月(32歳時)【小脳梗塞】で倒れ、約半年の間入院静養に入り、予定していたライブツアーを含めた音楽活動を全て休止しましたが、現在は復帰しています。
高山善廣:プロレスラー
引用:https://www.instagram.com/p/BvQ41cQH7gL/
高山善廣(たかやまよしひろ)さんは、2004年8月8日 、新日本プロレス「G1 CLIMAX」公式戦で佐々木健介と対戦した後、脳梗塞で倒れた。試合後に病院へ搬送され、手術を受けた。
引用:https://www.instagram.com/p/ByDWPGkJmlc/
KEIKO
引用:https://www.oricon.co.jp/news/2185723/photo/2/
KEIKOさんは2011年10月に都内の自宅で倒れ、病院に緊急搬送。くも膜下出血と診断され、約5時間にもおよぶ手術を受けていた。
磯野貴理子
引用:https://www.instagram.com/p/BxtcOf_FOC-/
磯野貴理子(いそのきりこ)さんは、現在55歳。女優・タレントと幅広い活躍で人気があります。2014年、50歳時の時に仕事に行く前、「普通に立てず、眼の焦点が合わず、呂律が回らない」という異常にご主人がいち早く気づき、救急搬送。一命を取り留めたとのことです。
【あの人の健康法】タレントの磯野貴理子さんを突然襲った脳梗塞
https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_1101.html
これらは一部の例であり、脳卒中は誰にでも起こりうる病気です。
治療
脳卒中の治療は多専門的なアプローチを必要とし、神経科医、脳神経外科医、リハビリテーションチームなどの専門家の協力が必要です
脳卒中の治療方法は、脳卒中の原因となる病態や症状の重症度によって異なります。以下に一般的な治療方法をいくつか挙げます。
血管内治療(インターベンショナル治療):
血管内血栓除去:脳卒中の主な原因である血栓を血管内で取り除くための手術的処置です。カテーテルを介して血管内にアクセスし、血栓を取り除く方法があります。
血管内ステント留置:血管内にステントを留置して、狭窄した血管を開放する手術的処置です。
脳血管手術:
血管内バルーン血管成形術:脳血管の狭窄を拡張するために、バルーンを使用する手術です。
血管バイパス手術:血流を脳にリダイレクトするために、他の血管を使用して新しい経路を作る手術です。
脳神経外科手術:
脳出血や脳腫瘍などによる圧迫を解消するための手術です。
脳動脈瘤のクリッピングや脳動静脈奇形の切除など、脳血管異常の手術的治療が含まれます。
これらの手術は、病態や症状に応じて行われることがあります。手術は一般に重症な状態や合併症のリスクが高い場合に検討されます。手術にはリスクが伴うため、医師と患者は利益とリスクを評価し、最適な治療法を選択する必要があります。
急性期治療:
血栓溶解療法(tPA療法):脳卒中の主な原因である血栓を溶かすために、血栓溶解薬(tPA)を静脈内投与する治療法です。この治療は、発症から数時間以内に行われることが必要です。
血管内治療(インターベンショナル治療):血管内での手術的処置により、血管内の血栓や狭窄部を取り除く治療法です。
予防治療:
薬物治療:抗血小板薬(例:アスピリン、クロピドグレル)、抗凝固薬(例:ワルファリン、新しい経口抗凝固薬)、血圧降下薬などが使用され、再発や合併症の予防に役立ちます。
生活習慣の改善:禁煙、適切な食事、適度な運動、ストレス管理などの生活習慣の改善が推奨されます。
急性期~回復期の治療
リハビリテーション:
脳卒中リハビリテーションは、専門の医療チームによって行われることが一般的です。このチームにはリハビリテーション医、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、心理士、看護師などが含まれます。医療チームは患者のケアを総合的に管理し、リハビリテーションの効果的な実施と患者の回復をサポートします。
理学療法
脳卒中後の身体的な機能の回復や改善を促進するための治療プログラムである理学療法は、脳卒中によって引き起こされる身体的な機能障害を改善することを目指しています。具体的には、筋力、バランス、歩行などの身体的な機能の向上を促すための運動療法やトレーニングが行われます。理学療法士は、筋力トレーニングや運動制御の練習を通じて機能の回復を促し、歩行やバランスの困難を改善するためのプログラムを設計します。また、補助具の使用や適切な歩行訓練によって、患者の歩行能力とバランスを向上させます。 脳卒中後に痛みが生じることがあり疼痛管理のための適切なアプローチやテクニックを提供します。 これらに加え日常生活動作(ADL)や自己介助活動の再獲得を支援します。例えば、着替え、入浴、食事、トイレ利用などの動作の改善を目指します。
脳卒中理学療法は、患者の個別の状態やニーズに応じてカスタマイズされます。理学療法士は、患者の評価を行い、適切な治療計画を立案します。脳卒中理学療法は、専門の理学療法士によって行われることが一般的です。理学療法士は、患者のケアを個別に管理し、適切な評価と治療を提供します。また、患者や家族に対して教育やサポートも行います。
作業療法
作業療法(Occupational Therapy)は、脳卒中後の患者が日常生活での活動や自己介助能力を回復し、独立した生活を送るための治療プログラムです。作業療法は、これらの機能障害を改善し、患者が自己の日常生活を再び行えるようにサポートします。
脳卒中後には、自己介助能力や日常生活での動作の困難が生じることがあります。食事、入浴、着替え、トイレ利用などの日常生活動作の再獲得を支援します。 また認知機能の障害が生じることがあります。作業療法士は、記憶、注意力、問題解決能力などの認知機能の回復を促すためのトレーニングや療法を提供します。 上肢の運動や機能の障害が生じることがあります。作業療法士は、上肢の筋力、協調性、運動制御を改善するためのトレーニングや指導を行います。 患者の住環境や職場などの環境への適応が必要となることがあります。作業療法士は、環境の調整や適切な補助具の使用などを通じて、患者の環境適応をサポートします。 作業療法士は、患者の評価を行い、適切な治療計画を立案します。治療は、日常生活動作の練習、認知トレーニング、上肢の運動療法、環境調整などを含む場合があります。
言語療法(Speech Therapy)言語、言葉の理解、発話、読み書きなどの言語的機能の回復を促すための療法が行われます。
脳卒中の言語聴覚士は、患者の言語能力や聴覚能力の評価を行い、障害の程度や種類を把握します。その後、個々の患者に合わせた言語療法や聴覚訓練を計画し、実施します。例えば、言葉の理解や発話の問題、読み書きの障害、声の出し方の困難、聞こえ方の問題などに対して、適切な療法や訓練を提供します。
脳卒中の言語聴覚士は、言語療法や聴覚訓練だけでなく、コミュニケーションのサポートや家族へのアドバイスも行います。また、他の医療従事者やリハビリテーションチームと協力して、患者の回復を支援します。
脳卒中の言語聴覚士は、専門的な知識と技術を持っており、脳卒中患者のコミュニケーション機能の回復や向上に貢献しています。
脳卒中リハビリテーションは、個々の患者の状態やニーズに応じてカスタマイズされます。継続的な評価と目標設定が行われ、リハビリテーションの進捗状況がモニタリングされます。また、家族や介護者の教育やサポートも重要な要素となります。
成功率
手術の成功率は、手術の種類や患者の状態によって異なります。以下にいくつかの一般的な手術の成功率の一例を示しますが、これらは一般的な目安であり、個々の状況によって異なる場合があります。
血管内治療(インターベンショナル治療):
血管内血栓除去:早期の血栓除去による再灌流の成功率は、80%以上とされています。
血管内ステント留置:血管内ステント留置の成功率は高く、血管の再狭窄を防ぐことが期待されます。
脳血管手術:
血管内バルーン血管成形術:一般的には高い成功率を持ちますが、狭窄の程度や血管の状態によって異なります。
血管バイパス手術:成功率は手術のタイプや患者の状態によって異なりますが、一般的には高い成功率を持つとされています。
脳神経外科手術:
脳出血や脳腫瘍の手術:手術の成功率は、出血や腫瘍の部位や大きさ、手術の難易度によって異なります。
脳動脈瘤のクリッピングや脳動静脈奇形の切除:手術の成功率は、病変の特性や血管の位置によって異なります。
手術の成功率には個体差があり、患者の年齢、基礎疾患、合併症の有無などが影響する場合があります。治療の成功は、合併症の発生率、症状の改善、再発のリスクの低下など、さまざまな要素で評価されます。手術の適応や成功率については、担当医師との相談が重要です。